基本情報
- 寿命
- 野生で20〜25年。成熟まで約13〜15年・15回前後の脱皮
- 体重
- 成体は甲幅30〜35cm・全長60cm前後・2〜4kg、雌が大きい
- 性格
- おとなしく人を攻撃しない。尾剣は防御・起き上がり用
- 飼育難易度
- 極高(海水・砂・餌。個人飼育は原則不可)
- 法規制
- 繁殖地は天然記念物(文化財保護法)、採集・飼育は原則不可
- 最重要ポイント
- 打ち上げ個体は尾剣を持たず両手で甲羅を支え海へ戻す
生態と特徴
- 体の特徴
- 甲は前体・後体・尾剣の3部。書鰓で呼吸、血液は銅を含み青い。脚で貝や虫を砕く
- 原産地・分布
- 日本(瀬戸内海西部・九州北西部)、中国、台湾、東南アジア
- 野生での生息環境
- 内湾の砂浜と干潟。幼生は干潟、成体は水深10〜20mの砂泥底
- 活動時間・睡眠
- 満潮時や夜に砂上を歩き餌を探す。水温が下がる冬は深場で休眠
- 社会性・人との関係
- 単独性。夏の産卵期だけ雄が雌に抱きつき番で砂浜に上がる
特徴的な行動・習性
- ひっくり返ると尾剣を支点に体を反らせて起き上がる
- 砂に浅く潜って休む。潜れる細かい砂がないと落ち着かない
- 脱皮は前縁が割れて前へ抜け出す。脱皮殻は軽く中が空
かかりやすい病気と予兆の見方・予防
甲羅の損傷・腐食
予兆甲の縁が欠ける、黒ずみや穴、白い綿状の付着、脚の関節から体液がにじむ
予防水槽の角や岩にぶつけない。水質を清浄に保ち、持ち上げは両手で甲を支える
脱皮不全(幼体)
予兆前縁が割れたまま抜け出せない、脱皮後に動かず体が柔らかいまま固まらない
予防塩分・水温を一定に保ち、脱皮中は絶対に触らない。栄養不足にしない
酸欠・鰓の障害
予兆書鰓をせわしなく動かす、水面近くで腹を上にする、鰓が赤黒い・藻や泥で汚れる
予防エアレーションを常時。砂の巻き上げや汚泥をためず、鰓を乾かさない
アンモニア・亜硝酸中毒
予兆急に動かなくなる、鰓を激しく動かす、脚を縮めて反応が鈍い、複数同時に弱る
予防ろ過を十分に立ち上げてから収容。週1回水質検査、残餌は当日除去
低塩分・水温ショック
予兆換水直後に暴れる、脚を硬直させる、水温15℃以下で動かず餌を食べない
予防比重と水温を合わせてから換水。急な真水の流入を避け水温20〜28℃に
拒食・衰弱
予兆数週間餌を食べない、脚の動きが弱い、持ち上げると脚がだらりと垂れる
予防アサリ・ゴカイなど生に近い餌を夜に与え、砂と隠れ場を確保し刺激を減らす
病気の予兆チェックリスト
毎日1回チェック。1つでも当てはまれば早めに動物病院へ相談。
病気の応急処置
ひっくり返って動かない
尾剣を持たず両手で前体の両側を支えて正位に戻す。水中なら鰓を水に浸し静置、改善なければ水質検査と換水
鰓を速く動かす・酸欠
すぐにエアレーションを強め、水温を測り28℃超なら冷却。アンモニア・亜硝酸を検査し異常なら同温同比重の海水で1/3換水
脱皮が途中で止まる
手を出さず暗く静かにして水流を弱める。塩分・水温が変わっていないか確認。半日以上進まなければ飼育担当獣医に相談
甲の損傷から体液が出る
刺激を避け水質を清浄に保ち、傷を写真に撮る。清潔な海水で静置し、無脊椎動物を診られる獣医か水族館に相談
起こりやすい怪我と予防・応急処置
尾剣の折損
予防尾剣を持って持ち上げない。水槽内の障害物やフタに挟まないよう余裕を持った設計
応急処置折れた部位を刺激せず清潔な海水で静置。尾剣がないと起き上がれないため転倒を毎日確認
甲羅のひび・欠け
予防落とさない。移動時は両手で甲を支え、容器は深さ・幅に余裕を持たせる
応急処置欠けた破片を無理に戻さない。水質を清浄に保ち、体液の漏れが続けば獣医へ当日相談
脚・付属肢の欠損
予防他個体との過密を避け、網ですくわず手で持つ。フィルター吸水口にカバー
応急処置体液が止まるまで刺激しない。脱皮で再生することがあるため栄養と水質を整える
干潟での打ち上げ・乾燥
予防産卵期に砂浜に上がった個体には近づかず触らない。採集・持ち帰りをしない
応急処置生きていれば日陰か海水に戻し、ひっくり返っていたら正位に。標識があれば番号を記録し通報
動物由来感染症(人にうつる病気)
ビブリオ感染症
感染経路海水や個体に触れた手の傷、尾剣の刺し傷
予防手に傷があれば手袋。作業後は石けんで洗い、傷が腫れ熱を持てば受診
非結核性抗酸菌症
感染経路水槽の水・器具に触れた手の擦り傷
予防水槽作業は手袋。治らない皮膚のしこりは水槽を扱うことを伝え受診
破傷風・創傷感染
感染経路尾剣や甲の縁による刺し傷・切り傷
予防刺さったら流水で洗い消毒。深い傷は受診しワクチン歴を確認
腸管感染症
感染経路干潟の泥や海水が手から口に入る
予防作業後は手洗い、飲食は手を洗ってから。子どもは手を口に入れさせない
飼養条件:餌・水・おもちゃ・巣・床材
餌
- アサリ・シジミのむき身、エビ、ゴカイを週2〜3回夜に
- 量は甲幅の1/10程度の貝1〜2個が目安。翌朝残餌を除く
- 幼体は細かく刻んだ貝やアミ、冷凍ブラインを少量毎日
水
- 人工海水。比重1.020〜1.025、水温20〜28℃を保つ
- 換水は同温・同比重の海水で週1回1/4〜1/3
与えてはいけないもの
- 真水・淡水。塩分の急変で弱る
- 魚病薬・銅を含む薬剤。節足動物に致死的
- 腐った餌・味付けした人の食べ物
おもちゃ・遊び
- 潜って休める細かい砂。遊具は不要で物を入れすぎない
- ゆるやかな水流。歩き回れる広い底面が運動になる
- 生きたアサリを砂に埋めると探して食べる行動が引き出せる
巣・寝床・隠れ家
- 厚さ5cm以上の細砂。潜れる場所が隠れ家になる
- 角のない緩い斜面。角にはまって転倒するのを防ぐ
床材・トイレ
- 細かい珪砂か海砂。粗い砂利は甲や鰓を傷つける
- 砂はプロホースで表面を清掃し、汚泥をためない
- トイレは不要。排泄物と残餌をこまめに吸い出す
飼養環境:ケージ・運動・温湿度
ケージ・ハウスの素材
アクリルかガラスの海水対応水槽。金属部品は使わない
大きさ・広さ
成体は底面1.5m×1m以上、幼体は甲幅の10倍以上の底面
配置・レイアウト
- 底一面に細砂。岩やレイアウト物は最小限に
- 強めのエアレーションと外部ろ過。吸水口にカバー
- 水深は甲幅の2〜3倍。フタと水面の間に余裕を持たせる
設置場所の注意
- 直射日光と振動を避ける。水温が安定する場所
- 複数飼育は広さが必要。過密は転倒と鰓損傷の原因
運動・部屋んぽ・散歩
- 散歩は不要。底面を歩き回れる広さが運動になる
- 外へ出さない。短時間でも鰓が乾くと呼吸できない
- 展示や観察で持ち上げるのは最小限。両手で甲を支える
温湿度管理
適温水温20〜28℃。15℃以下で活動低下、30℃超は危険
適湿度水中生活のため湿度は不問。水から出す時は鰓を濡らす
夏・冬の対策
- 夏はクーラーで28℃以下。産卵期は雄雌を落ち着かせる
- 冬は水温が下がると休眠する。急な加温は避け一定に
グルーミングと外敵からの保護
爪切り
爪切りは不要。甲や鰓に付着した藻は柔らかいブラシで海水中で軽く落とす
ブラッシング・皮膚被毛ケア
甲羅は週1回観察し、欠け・黒ずみ・綿状付着を写真で記録。こすらない
その他のケア
幼体の脱皮は年1回程度。脱皮殻は捨てず、脱皮殻か死体かを確認してから記録する
外敵からの保護
- 水槽内の魚やカニは脚や鰓をかじる。同居させない
- 干潟ではカラス・サギが転倒個体を襲う。見つけたら正位に
- 子ども・来館者に尾剣を持たせない。触れ方を掲示する
飼養上の注意(事故防止)
異物誤飲
砂と一緒に小石や異物を飲み込むことがある。粗い砂利・人工物・金属片を底に入れない。餌の殻は食べ残しごと除去
踏みつけ
干潟で人に踏まれることがある。産卵期の砂浜では足元を確認し、幼体がいる干潟をむやみに歩き回らない
挟まれ
フタや水槽の角、岩の隙間に甲や脚が挟まって転倒する。隙間のない設計にし、毎日挟まっていないか確認
落下・転落
水槽から落とすと甲が割れ体液が漏れる。移動は低い位置で両手で甲を支え、尾剣で持ち上げない
逸走・脱走
脱走はしないが、打ち上げ個体の持ち帰りは違法になりうる。持ち帰らず海へ戻し、自治体か博物館・水族館へ連絡
噛みついた時の安全な引き離し方
やってはいけないこと
- 尾剣を持って引き抜かない・振り回さない
- 脚を無理に引きはがさない。関節が外れる
安全な引き離しの手順
- カブトガニは噛まない。脚に指が挟まれたら動かさず待つ
- 両手で前体の両側を支えて持ち上げ、水中で脚が開くのを待つ
- 服や網に尾剣・脚が絡んだら、生体を水に戻してからほどく
- 刺さった尾剣は無理に抜かず、生体を静かに離してから処置
引き離した後の処置
傷は流水で洗い消毒。海水由来の菌があるため腫れや熱が出たら受診
救命救急マニュアル
今すぐ夜間救急へ(命に関わる)
- 鰓が動かない・反応が全くない
- 甲が割れて体液が大量に漏れている
- ひっくり返ったまま起き上がれず鰓が乾く
- 複数個体が同時に弱り水質異常がある
当日中に受診
- 尾剣が折れた・根元が曲がった
- 脱皮が半日以上進まない
- 数日食べず脚の動きが弱い
受診時に伝えること・持ち物
水温・比重・水質検査値、甲幅、採集場所と標識番号、脱皮歴、写真を持参
意識・呼吸・心拍の確認
- 書鰓の動き(開閉)があれば生存。1分観察
- 脚をそっと触れると縮める反応があるか確認
- 脱皮殻は軽く中が空で前縁が開く。死体は重く臭う
蘇生の手順
- 正位に戻し、鰓が水に浸かるよう静かに水に入れる
- エアレーション最大、水温20〜28℃、比重を確認
- 新しい海水で1/3換水。アンモニア・亜硝酸を除く
- 暗く静かにして刺激を避け、回復を1〜2時間見守る
止血
- 青白い体液の漏れは刺激せず清潔な海水中で静置
- 甲の破片は戻さず触らない。圧迫止血はしない
- 乾いた部分は海水で湿らせ、乾燥させない
搬送方法
- 海水を張った容器に砂を敷き、甲を両手で支えて入れる
- 水温を保ちエアレーション。短時間なら濡らした布で鰓を覆う
ケースメソッドで学ぶ
